
このアルバム「逃避行」も勿論、この変速チューニングの音が聞こえてくる。ジョニ・ミッチェルは普通のチューニングでギターを弾くことはないのだろうか?そのあたりのことはよく分からない。以前ここで取り上げたボブ・ディランの「血の轍」冒頭曲「ブルーにこんがらがって」について、なぜこんなタイトルを思いつくのだろうと書いたことがあったが、ジョニ・ミッチェルの名アルバムと誉れ高い「ブルー」に触発されて作った曲だとどこかに書いてあって、なるほどと納得がいったような気がしたのだが、本人に確かめたわけではないので真偽のほどはわからない。
1. Coyote
2. Amelia
3. Furry Sings The Blues
4. A Strange Boy
5. Hejira
6. Song For Sharon
7. Black Crow
8. Blue Motel Room
9. Refuge Of The Roads
ベースでジャコ・パストリアスが参加しているのが、1、5、7、9。ギターでラリー・カールトンが2、4、7、8で。そしてニール・ヤングが3でハーモニカを吹いている。その中でも特に異彩を放つのが、確かこの作品で初めての組み合わせのジャコのベースであろう。出しゃばらずといって目立たないわけではない。どの曲も、せいぜい3,4人のミュージシャンしか参加していないのだ。2,7はドラムスもパーカッションもない。
ジャコのウェザー・リポートでの衝撃的なデビュー、そして悲劇的な最期は語りぐさとなっている。その演奏方法の特徴は、ひとつには多用するピッキング・ハーモニクス奏法と呼ばれるもの。一瞬、何の楽器が鳴ったのかわからないような豊かな音が拡がる。そしてもう一方が、フレットレス・ベースの自由奔放な流れの演奏だろう。ジョニ・ミッチェルのDVD「シャドウズ&ライト」で、その両方が随所で見ることができる。ベースファンにとっては必見の映像だろう。ギターにあのパット・メセニー、そしてマイケル・ブレッカーも参加、これは見逃せない。
Hejiraとは、辞書で調べると定冠詞Theがつくと「紀元622年のムハンマドのメッカからメジナへの移住」と出てくるが、普通名詞では「(危険からの)脱出」とある。そこで日本題が『逃避行』か。確かに『ヘジラ』では売れないだろうな。しかし、このモノクロのアルバムジャケット、彼女のアルバムの中でも最高じゃないかな。
ジョニ・ミッチェルは恋多き女であり、浮き名の数も知れず、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ。そしてジェームス・テイラーとのロマンスはことに有名のようだが、あまり関心はないので詳しく触れるつもりはない。ただし、ジェームス・テイラーの浮気性には相当苦労し悩んでいたとは、これも真偽のほどはともかく、ちょっと面白い話だ。J・T、誠実そうな外見、「君の友達」、「ファイヤー・アンド・レイン」からは伺えない意外な側面というところか、危ない、危ない。
1曲目の「コヨーテ」が独特だ。例の変則チューニング・ギターのリズムに続いて、ジャコのハーモニクスが唸ると曲はまるでコヨーテそのもののように疾走し始める。過去に経験したことのないような感覚の曲だ。コヨーテとは、当時つきあっていた男性のことか、誰だ?
2曲目、一転してしっとりと「アメリア」に歌いかける。アメリアとは、先ほどの「シャドウズ&ライト」でも紹介されるのだが、女性として初めての大西洋単独横断飛行などをした飛行士アメリア・イアハートのことだという。映画「ナイト・ミュージアムⅡ」でも大活躍でしたね。同じ女性として、強く生きようとする女性の象徴として捉えていたのだろう。1937年7月の赤道上世界一周飛行の途中で、南太平洋において行方不明となったという数奇な運命をたどる。残念ながら、私の英語力では解読不能であるが、彼女を悼んでの唄であろうことはわかる。
そしてやっぱり、1番の聴きものは7.「Black Crow」だろう。「黒いカラス」、アルバムジャケットのライナーノーツを注意深く読むとカバー・デザインはジョニ・ミッチェル本人の手によるものだとわかる。そこでは、カラスの衣装をまとったジョニが氷上を踊る姿がある。これは前述のビデオでも延々と流されるシーンだ。曲もジャコとラリー・カールトンが加わって3人だけの格闘技のような演奏が繰り広げられる。カラスが急降下するようなラリー・カールトンンのエレキ・ギター、煽るようなジョニのリズム・ギター、待ち構えてしっかりと受け止めるベース。まさにトライアングルの真剣勝負だ。
ジョニ・ミッチェルは、絵画の才能もあるようで、ある種の研究によるととんでもないIQの持ち主らしい。確かに、常人には理解しがたいような孤高の姿を見せることがある。近寄りがたいというのか。そんなジョニに比較的簡単に近寄る方法がある。彼女のベスト盤と呼ぶべきアルバム「Hits」から入ると、スムーズに入れるのではないかと思われる。値段もこなれている。中期までの傑作群「ビッグ・イエロー・タクシー」、「ウッドストック」、「陽気な泥棒」、「青春の光と影」、「サークル・ゲーム」等を網羅しており、親しみ易い。「チャイニーズ・カフェ」などは種明かしはよしておくが、実に不思議な曲だ。聞けばわかります。不思議な余韻が残ります。


by おぢさんRock委員会
ロンリー・サーファー